相手の感情がわかることによって、我慢や忍耐の心は働きます。では、なぜ相手の感情がわかると、人は「我慢しよう」もしくは「我慢しなきゃ」と思うのでしょうか。
みなさんはどうでしょうか。どういうときに「自分が我慢しても人に譲ろう」と思いますか? それは、相手の感情に「共感」したときだと思います。相手の悲しみや苦しみに共感できたとき、人は「それほど悲しいのなら」「そんなにも苦しいのなら」と自分の感情を抑えて相手に譲るのです。
「共感」とは、共に感じると書きますが、もっとかみ砕いて言えば、「読みとった相手の感情と同じ感情を自分も感じる」ということです。感情を抑えるのは理性ですが、実はその理性を働かせるのは、共感という感情の一致なのです。
動物は感情を持っていますが、相手に共感することはめったにありません。共感は人間だけに見られるものです。ということは、共感の働きは人間脳(大脳皮質)にあるということです。では、その働きは、人間脳の中のどの部分にあるのでしょう。
実はそれは、この章の最初の部分でお話しした「心の場所」である前頭前野の中の、さらにその真ん中の部分「 内側前頭前野 」というところにあるのです。このことから 内側前頭前野 は、別名「 共感脳 」ともいわれています。
「前頭前野」というのは、わかりやすく言うと、額のちょうど真ん中部分にあたります。
仏像を見ると額に小さな丸いものがついています。あれは「白竜」というのですが、ちょうど脳のあのあたりに位置する脳が「内側前頭前野」です。人間が社会生活をするうえで必要な、「我慢の心」や「共感」といった能力は、「内側前頭前野= 共感脳」の働きによってつくり出されていたのです。