共感脳の働きである「社会性」や「共感」については、主にセロトニン神経との関係について説明します。学習脳がドーパミン神経によって活性化し、仕事脳がノルアドレナリン神経の働きによって活性化するように、共感脳もセロトニン神経によって活性化します。
セロトニンは、ノルアドレナリンと同じように、脳に覚醒をもたらす神経伝達物質ですが、ノルアドレナリンがホットな覚醒をもたらすのに対し、セロトニンは「クールな覚軽」をもたらします。っまり、脳が高い働きができるような状態を常に維持してくれるわけです。
また、ノルアドレナリン神経が脳全体にネットワークをめぐらしているのと同様、セロトニン神経もほぼ同じ場所にネットワークを構築しています。このようにノルアドレナリン神経とセロトニン神経は似ている部分があるのですが、決定的な違いが1つだけあります。
それは、ノルアドレナリン神経が、内外からのストレス刺激によって放出量を変えるのに対して、セロトニン神経はそうした刺激の有無にかかわらず、常にl定圭のセロトニンを放出し続けるということです。
また、セロトニン神経には、それ自体が何か仕手をするわけではないという特徴があります。
オーケストラの指揮者を想像してみてください。指揮者は全体のバランスを整えることですばらしい演奏を演出しますが、指揮者自身が楽器を演奏するわけではありません。セロトニン神経の働きも、それと同じなのです。つまり、一定量のセロトニンが規則正しく出ることによって、セロトニン神経は、ドーパミン神経やノルアドレナリン神経の過興奮を抑え、脳全体のバランスを整え、「平常心」をもたらすという働きをしているのです。
「学習脳」「仕事脳」のところで、それぞれドーパミンとノルアドレナリンが出すぎることによって起きる問題について触れましたが、実はセロトニン神経が活性状態にあれば、この2つの神経が多少過興奮しても、それぞれの過興奮を上手に抑えてバランスを整えてくれるのです。
もちろん、セロトニンも過剰に出すぎると、仏教の修行などで「魔境」といわれる幻覚を見るような状態になることがあるのですが、これはよほど修行を積んだ人に見られるもので、普通の生活を送りながらセロトニンを鍛える場合には、そうしたところまでセロトニンが出ることはまずありません。
機能が低下して問題を起こすことはあっても、ドーパミン神経やノルアドレナリン神経のように、過興奮することはまずないといっていいでしょう。セロトニン神経を鍛えれば、ストレスに強くなるというのは、こうした中枢としてのコントロール機能が働くことを意味していたのです。