最近のニュースで特に特徴的なのはやはりなんといっても、中高年男性の自殺死亡者の急増。自殺者数というものは、その国の社会のあり方(政治や経済など) に何らかの関連性があって、いつも注目されるものです。
長年日本の自殺死亡率は、年齢別に見ると20歳前後の若年層と70歳くらいの高齢者に2つのピークをもっていましたた。
若者の自殺の多いことが、日本の1つの特徴でした。ところが高度経済成長期以後、若者の自殺者はいちじるしく減少し、自殺死亡率のカーブは、若年から老年になだらかに上昇しているシンプルなものに変わってきました。
ところが、80代後半ごろから、50歳代からの中高年の自殺死亡率が高くなる新しいピークが現われた。「昭和1ケタ世代は、もろい」などという世代論が出たりした。当時も第二次石油ショック、円高不況などがあり、産業構造の再編がはじまった頃でした。
その後も、だいたいにおいて、中高年に1つのピークがあり、一度下がってそして高齢になるにしたがって自殺死亡率は上がっていく形が定着していた(図1参照)。それは、高齢になるにしたがってセきにくい社会ということの反映ですが、98年の統計で特徴的なのは、その数のいちじるしい増加です。
98年の自殺死亡率を97年のそれと比較して、年代別に見てみると、働きざかり全体に実数で増えているのですが、とくに50歳代の増加が著しいのです。
社会的環境の変化と自殺死亡率との関連をみると、不況とか失業者の増加などの生活の困難と自殺者数の変動は、きわめて連動していることがよくわかります。
たしかに、今までさほど将来の生活に不安をもっていなかった人が、急激な経済的危機に見舞われ不況とか失業者の増加などの生活の困難と自殺者数の変動は、きわめて連動していることがよくわかります。たしかに、今までさほど将来の生活に不安をもっていなかった人が、急激な経済的危機に見舞われってがんばったり、金もうけの方法を考えます。
うまくいかなければ、何とかやりくりしようとします。将来に不安があれば、何とか貯えを少なくしないように家族全体で対策を考えます。
このように、いろいろと対策を考えて、「何とか数年は乗りきろう」と決意します。多くの人は、そうしています。
また、不況になって、かえつて割り切りやすくなったという人もいます。「私のように苦労しているのは、私のせいで、家族に申しわけないと思っていたけれど、今のように右をみても左をみても苦しい話ばかりだと、こういう時代だ。みんな同じだと思うと、少し肩の荷が軽くなったりしますね」という患者さんもいました。
多くの人々には、社会経済の変化を客観的に受けとめ、自分の将来計画や当面のやりくりに必要な変更を加える判断と行動を行っていくのである。最悪の場合、家族の力や社会的な援助を受けることも、あえて受けいれるのである。
世の中の大きな変動のなかで、自分の行動のあり方を変えられる柔軟性こそ、精神的自立に主要な側面なのです。この大不況といわれる経済的困難のなかで、そこを柔軟に乗りきれなかった人が急増したということです。それは、何でしょうか?