疲れれば寝られるはず…と思っている

「疲れたから眠る」というホメオスタシス機構は、疲労によって傷ついた神経や細胞を回復させるので、休むという言葉がぴったり当てはまりますが、ホメオスタシス機構は、単に回復を担っているわけではありません。

ホメオスタシス(homeostasis)とは、生体が変化を拒み、一定の状態を維持しようとする働きのこと。 「恒常性」とも呼ばれます。

「疲れた」という状態を、脳の情報処理量という視点から見てみましょう。

1日仕事をすると、脳にはたくさんの情報が溜まります。溜まった情報は、その意味を知らなければなりません。脳の中で、その情報にはどんな意味があって、どのカテゴリーに入るのか、という処理がされます。

一度にたくさんの出来事が重なれば、それだけ頭の中はごちゃごちゃになるので、情報処理作業には負担がかかります。

さて、私たちは、頭がごちゃごちゃになると頭の整理をしたくなるので、起きているうちに今日の反省と明日以降の予定を立てようとします。忙しければ忙しいほど、ごちゃごちゃ度がひどく、整理するにも時間を要するので、「休んでいる暇などない」と考え、睡眠を削ります。

しかし、実は、このごちゃごちゃを整理する作業は、睡眠が担うべき作業なのです。睡眠中には、脳内に溜まった情報が整理されます。不要な情報は消去し、問題が解決できそうな既存の情報と結びつける作業です。

これは、比喩的な表現ではなく、実際の脳内の神経細胞は、その重要度が選別され、不要な細胞はアポトーシスという作用によって、死滅します。これによって、無意味な細胞にエネルギーを奪われることがなくなり、脳内のエネルギー効率が向上するのです。さらに空き容量が増えたことで、新しい神経細胞が生まれやすくなります。

せっかくこんな働きがあるのに、睡眠を削ってでも起きているうちになんとかしようと思ってしまうのは、もったいないことです。睡眠中には意識がないので、私たちはどうしても意識がある覚醒している時間を重要視しがちです。疲れたらどうせ眠るんだろうから、起きていられるうちは起きていようと考えることもあるのではないでしょうか。

しかし、脳というものをいったん自分から切り離して、その働きを見てみると、意識がない睡眠中の働きは、今の自分を大きく成長させる重要な資源だということが分かっていただけると思います。睡眠は、今日の疲れをとるだけではなく、今日の反省をし、明日の準備を整えるものでもあるのです。

ただし、その作用は、ただ眠るだけではうまく働きません。睡眠の質を上げることで、脳内の情報整理能力が上がるのです。そこで次は、睡眠の質を上げる3つの重要なホルモンを見ていきましょう。

小さい頃からストレス環境にいた

うつ病の研究者アーロン・T ・ペックの解説を待つまでもなく、うつ病者は小さい頃からストレスになる環境で生きてきたと断言しています。

動物だって環境が悪ければ元気を失います。元気のないザリガニだって、きれいな場所に移せば元気になります。

木も環境が変われば葉が落ちます。私はある時ボストンの郊外から街中に引っ越しました。その時、コンドミニアムに室内用の鉢植えの木を買ってきました。あまりに葉が落ちるので、その木を買ったお店に行って聞いてみると、「環境が変わったから葉が落ちるんですよ」と言われて、あらためて木が生きていると感じたました。

毎日世話をしながらしばらくすると、落ちる葉の数は少なくなつた。ところが事情があって郊外に引っ越しました。もう室内に緑が必要ないので鉢からはずして外に植えました。しばらく留守にして戻ってみると、その木は枯れていました。

大脳新皮質と扁桃核の回路の損傷

大脳新皮質が扁桃核と切り離されてしまうと、何を見ても感情が動かなくなるといいます。!すべてが好きでも嫌いでもない。うつ病になるような人は、長い間のストレスによってこの回路に損傷を受けた可能性があるというものです。

ということは、大脳新皮質と扁桃核は、つながっているからこそ、それぞれの機能を果たしているということです。大脳新皮質と扁桃核とが共に十分に機能していて初めて、好きなことがあり、楽しいという体験もできるでしょう。

また、好きとか嫌いとか、楽しいとかつまらないとかいう情動をより多く体験することで、扁桃核も活発になるでしょう。

うつ病になるような人は、長ぃこと嫌いなことを続けすぎたのです。そして長い間のストレスで扁桃核の機能が低下したのだろうし、先の回路に何か支障をきたのでしょう。