どんなに嘆いても問題は解決しない

それにしてもうつ病になるような人は「なぜあきれるほど過去にこだわる」のでしょうか?「過去にこだわる」と言った時に、2つの意味があります。

まず、1つは自分の過去の失敗をいつまでも悔い続けている時、その理由はそのように悔やむことで失敗の免罪を得られると思っているからです。そしてそのように悔やみ、自分を責めることで自己の価値を維持し続けようとしています。

「過去にこだわる」と言った時のもう1つの意味は、自分が過去に被った被害をいつまでも訴え続けることです。

被害を誇張して訴えるのは他の個所でも説明したが、憎しみの感情を吐露しているのです。

被害者意識に立ってものをいう人が日本人には多数います。それは日本人には心の底に憎しみがあることを示しています。

また、それと同時に、彼らは愛を求めているのです。被害者意識に立ってものをいう人は解決を考えていません。自分を認めてくれ、愛してくれ、分かってくれと叫んでいるのですから。

人がいると妙にはしゃぐ子供がいます。そうした子供は淋しいのです。周囲の人の注目を求めているのです。

被害を誇張して訴える大人の心理はこれと同じです。過去にこだわる理由は、過去に被った被害の苦しみをいつまでも訴え続けていれば、いまの苦しみは消えるからです。

人がいつもいつも嘆いているのは、注目を求めることでいまの苦しみを消すためです。嘆いていればその瞬間、少しは心理的に楽になる。注目を求めている瞬間、少しは心理的に楽になるからです。

「もし私の親に少しでも愛する能力があったら、私はここまで不幸にはならなかったのに」と嘆いていることで、かろうじて現実にとどまっていられるのです。

自分の不幸をそのように嘆くことで慰めているのです。「私の親兄弟があそこまで冷酷でずるくなければ、私の人生はここまで惨めでなかったのに」と避けようのない過去を嘆くことで、いまの不幸に耐えようとしているのです。

嘆き続けることでガスを抜いているのです。自分の憎しみの感情を喋っています。話しても話しても憎しみの感情が晴れないのです。傷が癒されません。そこでいつまでも嘆き続けるのです。

過去を嘆いていても、いまの現実の問題を解決することにはならないことは、嘆いている本人も知っています。しかし変えることのできない過去を嘆くことで、いま心理的に楽になるから嘆くのです。。

 

「憎しみ」は人の心理的成長をストップさせてしまう

過去の空き缶をガラガラと引きずっているということは、あなたが「肛門性格」ということだったり、「執着性格者」だったりということです。

肛門性格とは、フロイドによれば口唇期(生後およそ一年間のことをいう)を過ぎて次の肛門期(排泄のしっけが始まる2歳から4歳くらいまで) で成長が止まっている人です。

肛門性格は「節約」と「頑固」を特徴とする。肛門性格にしろ、執着性格者にしろ、心の底に憎しみがあるということです。

あなたはそれにしがみついて、その先に進めないのです。それは憎しみが消えないからです。ことに幼児期の憎しみはなかなか消えません。

人の心理的成長を止めるのは憎しみです。憎しみを持った者はその時から心理的成長を止めてしまいます。その憎しみに心を支配され始めます。

ある年齢になってから憎しみを持ったとしても、それを解消する能力をすでに持っています。だからその人の心理的成長を一時的に止めても、やがて成長を始めて、その人の人生に決定的な影響を与えるということはありません。

憎しみを解消する能力とは、生産的に生きる能力です。

しかし幼児期に憎しみを持ってしまうと、まだ生産的に生きる能力がついていません。そこでその憎しみは根雪となってちょっとやそっとのことで消えません。

つまり、憎しみを持つと多くの人はその幼児期の段階で心理的な成長を止めてしまいます。過去に捕らわれてしまった人は、社会的、肉体的には大人でも、心理的には幼児のような、いわゆる5歳児の大人とでも表現できるような人が多いのです。

 

過去にこだわりすぎると、今動けなくなる

うつ病者の時間は止まっています。体は現在に生きていても、心は過去の時間に捕らわれています。

だから、「あの時に、あーしたらあれはうまくいったのに」ということをいつまでも言い続けています。バックミラーを見て運転すれば誰でも事故は起こすでしょう。

でも前を見られないのが、うつ病になるような人です。心理的に健康な人は、うつ病になるような人は前を見られるのにバックミラーを見て運転しているのはなぜだろうと思っています。

そうではないのです。前を見られないからバックミラーを見て運転しているのす。過去にこだわるのは、いま、動けないからです。「もういい加減にしろよ」と言いたいほど過去を引きずって生きているのは、先に進めないからです。

うつ病になるような人はいま何をしていいのかが分かりません。自分は何をしたいのかが分かりません。

うつ病になったきっかけ(私の体験談)

心理的に言えば、長いこと安全な場所で自分は何をしたいかを考えてこなかったからです。危険地帯で生きてきたからです。

だからいま先へ進もうとする時に、自分は間違いなくこれをしたという確認がほしいのです。その確認がないと先に進めません。自己執着的な納得をしてから先に行くのです。